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2013年6月28日金曜日

SHAME -シェイム- (2011・英) [7.0/10]

2011年のイギリス映画。
監督は2008年の"ハンガー"という映画を撮ったスティーブ・マックイーン。
"ハンガー"は北アイルランドの政治犯刑務所でのハンガー・ストライキに焦点を当てた映画で、この映画でマックイーンは2008年カンヌ国際映画祭にて新人監督賞を獲得している。
ちなみに日本で一般公開されたかは不明なため映像化されているかもちょっと分かりません。
映画のハンガーで検索すると30年前のトニー・スコットの映画ばかり出てきます。
そして今回のSHAMEという映画は性依存症を抱えるマイケル・ファスペンダー演じるブランドンという男が主人公でありこの男の物語である。
マイケル・ファスペンダーめちゃめちゃ男前なんですが、最初僕の大好きなクリミナル・マインドのアーロン・ホッチナー役のトーマス・ギブソンかと思ったけど見間違いでした。
劇中でも地下鉄で彼に見つめられる(視姦にも近い)と女性がモジモジしてしまうほどの色気を持っている男性です。
そんな彼のもとにキャリー・マリガン演じるシシーという妹が転がり込んできたことから生活が崩壊していく。
性への衝動が抑えられない彼だが妹との同居により自由な生活を送れなくなり自己のペースが乱れ、そのフラストレーションの矛先(性的な意味ではなく単純に怒り)は妹のシシーに向けられるがその後シシーの取った行動が彼を更に追い込んでいく...というのが大まかな内容ですかね。
この映画はなかなか字面で説明するのが難しいので稚拙なストーリー説明になってしまったことを御容赦下さい。
映画は大都市ニューヨークが舞台にも関わらず終始暗く静かなトーンで、なんというか抽象的な印象。
それと全体に漂う空虚感。
空虚を埋めるために新たなセックスに興じまたその一時的な快楽は空虚なものとなり、といった具合で空虚のスパイラルなんですこの映画は。
観終わってもラストまで、というかこれといってラストの展開もなくエンドロールを迎えるこの映画は心に空虚さだけを残していきます。
それがたまらなく素晴らしい。
特に既出の両役者の演技が素晴らしく各映画祭で多くの賞を獲得しています。
ファスペンダー演じるブランドンの狂気にも似た性への衝動、でもそれを表に出さず内に秘めているという不気味さが凄まじいです。
ちなみにキャリー・マリガンはヌードを披露していますが、ほんの1カットだし物語の展開にはほぼ関係ないのでこれ目的で観ると損した気分になると思います。
各レビューサイトでも評価が高く面白い映画だと思うので是非鑑賞してみて下さい。
ただテーマがテーマなので鑑賞は一人ないしは気心知れた仲間とどうぞ。

2013年6月26日水曜日

恋の罪 (2011・日) [6.5/10]

2011年の園子温監督の映画。
前作"冷たい熱帯魚"に続いて実際の事件を元にしたサスペンスである。
この映画もかなり強烈な映画ですね。
ちなみに主演の水野美紀がヌードになったことが話題になり興行的にもかなり成功した映画です。
題材になっている事件は東電OL殺人事件と呼ばれる事件で、東電の女性社員の遺体が渋谷区円山町のアパートの空室で発見されたが、この被害者の女性が東電初の女性総合職として入社するなどエリートな一面を持っている一方、夜は円山町界隈で売春を行っていた事実がマスコミによって大きく取り上げられ、被害者のプライバシーの問題を含め大きな話題・議論を呼んだ。
劇中でも冒頭でラブホテル街にあるアパートの一室で女性の変死体(実際の事件は絞殺)が発見される。
この事件を水野美紀演じる刑事の吉田和子が捜査していく過程で、大学助教授である尾沢美津子と著名な小説家の妻である菊池いずみが浮かび上がる。
この映画は和子が主役という設定になってるけど実際主役に近いのはいずみだと思います。
いずみは著名な小説家を夫に持ち幸せな日々を過ごす中で何か新しいことに挑戦してみたいという思いから昼間にスーパーでパートを始める。
そこである女性に声を掛けられスカウトされるのだが、それが彼女の運命を大きく変えることになる。
ひょんなことからAVに出演してしまいそこから欲望のカルマへと堕ちていく過程で、円山町で売春を行っている美津子に出会う。
それがまた更なる奈落の底への入口なのであった...というのが大まかな内容。
劇中の設定で被害者の女性は東電OLから有名大学の助教授に置き換えられています。
この美津子を演じる冨樫真がとにかく強烈です。
「ようこそ、愛の地獄へ」というキャッチコピーも鮮烈だが、この映画全体に漂う抗えない愛欲への衝動というテーマも強烈なものがあります。
特に神楽坂恵演じるいずみが普通の主婦からどんどん欲望の渦の中へと引きずり込まれ売春婦となり、そこからさらに堕ちていく様は惹かれるものがあります。
ラストはそういう意味で圧巻の結末が待っています。
この映画は説明するのが難しい作品な気がするので、実際に観てほしい!
好きな人はすごく好きな作品だと思います。

2013年6月25日火曜日

冷たい熱帯魚 (2010・日) [7.0/10]

2010年の園子温監督の映画。
"愛のむきだし"、"ちゃんと伝える"ときてこれかって感じもするけど、1993年に埼玉県熊谷市で起こった連続殺人事件を元にした猛烈なサスペンス。
一応R18+指定でグロテスクな描写が苦手な方は鑑賞を控えたほうがいいかもしれません。
内容はある熱帯魚屋を営む社本という男が主人公。
社本の娘がある日スーパーで万引きを犯すが、店長と親しい村田という男の懇意でその場は丸く収まる。
仮の出来た社本は口が上手く少し強引な村田の誘いを断れず、彼との関係を密にしていく。
だがそれが地獄への入口だった...といった感じ。
この村田という男は詐欺まがいのやり口で熱帯魚を破格の値段で売りつけるといったビジネスをしているが、実際の事件では犬を使ったビジネスで、ペットショップが劇中では熱帯魚屋に置き換えられている。
また村田はビジネスで面倒が起こると顧客を「透明にする」と言って次々に殺してしまうのだが、その殺しの手法から遺体の処理に至るまで実際の愛犬家殺人事件のやり方と酷似している。
個人的にはここまで再現しちゃっていいの?って感じもしますが。
劇中だと「まぁ落ち着けよ。」とか言って謎の栄養ドリンクを提供し強要することなく巧く飲ませ毒殺、その後社本に車を運転させ謎の山小屋に移動、そこの風呂場で村田と村田の妻が手慣れた手付きで遺体をブロックサイズにカットしていき骨と肉を分別、その後骨は醤油をかけて焼却しその灰は山道に散布、肉は川に捨て魚に食べさせ遺体は完全に消滅、まさに完全犯罪。
これが村田の言う「透明にする」ってやつです。
この「透明にする」ってのも実際の事件の容疑者が口にしていた殺人哲学である。
社本に関しては実際の事件で容疑者夫婦に脅され遺体処理の手伝いをしていた山崎という人間がモデルであると思われる。
後半からこの映画独自のストーリーがどんどん展開し、加速し、痛快と思えるほど惨たらしいラストを迎えます。
グロテスクな描写が多いがもはや風呂場で遺体を裁くシーンなんかはポップにすら感じる気味の悪さ。
とにかく村田を演じるでんでんが強烈すぎて、もう恐すぎて背筋も凍るとはこのこと。
でんでんはこの映画で日本の演技各賞を受賞しています。
園監督は再編集出来るならもっと早い箇所でエンドロールにしたかったと語っていますが僕はこの終わり方好きですけどね。
この映画もそうだし"恋の罪"なんかもそうなんだけど、現段階で何が起こってるかよくわかんないし、とかいってるうちにどんどん次の展開に巻き込まれていって...果たしてこれは何処に向かってるのかっていうのがわからない面白さがあると思います。
これは観てる観客もそうだし劇中の主人公の立場に立ってみてもそうなんだけど。
横っ面殴られるような映画かもしれませんが面白いので是非ご覧になってください。
今くらいのジメっとした梅雨の時期に観るのに結構合ってるかもしれません。

2013年6月20日木曜日

愛のむきだし (2009・日) [8.5/10]

園子温監督による2009年の映画。
最初に言ってしまうとこの映画は本当に最高です。
久々に最高な映画に出会えた!これこそ人生ってやつだ!と心から思った作品。
ここ最近まで園監督の映画をまともに観たことがなかったのがお恥ずかしい限り。
この映画は各界から絶賛を浴び日本の多くの賞、またベルリン映画祭でも賞を獲得している。
テーマはずばり愛と勃起。
上映時間は237分で5つのChapterに分かれている。
Chapter1は主人公ユウの生い立ちが軸になっている。
彼の母が幼い頃に病死し、その後神父となった父のもとにカオリという女が近寄ってくるが、彼女に逃げられたあとの父テツは心を病み、ユウに毎日罪の懺悔を求める。
しかし小心者のユウは告白する罪も無く途方に暮れ、自ら罪を作る日々を送り始める。
そんな中彼は成り行きで盗撮の修行を受け、それをテツに罪として懺悔する。
今までどんな罪も許していたテツだったが今回ばかりは怒りを露にする。
ユウはその怒りを父からの愛と感じ、その愛を求め更に盗撮に没頭していく。
それと同時にどれだけ女性のパンチラを写真に収めても性的興奮をすることのなかったユウだが、ある日道端で出くわしたヨーコという女性のパンチラを見て初めて勃起し、彼女に恋をする。
この辺りでタイトルがバン!と出るのだがこの時点でもう1時間経過してます。
Chapter2はこの映画では悪魔的な役割となるコイケという登場人物が主役。
彼女はゼロ教会という新興宗教団体の右腕で、この街で大きな信頼を得ているテツを取り込み、そのまま多くの信者を囲い込もうという陰謀を企てる。
彼女の生い立ちも悲惨で父からの性的虐待から殺人を犯し、少年院から出てきた後ゼロ教会の教祖に拾われ現在に至る。
僕は個人的にこのコイケが一番好きです。
とにかくむきだしな感じがしますこの人は。
Chapter3はヒロイン役のヨーコにスポットが当てられている。
ヨーコも悲惨な生い立ちで世の男は全員敵だと思っている。
一通りヨーコの現在に至るまでが描かれてやっとユウとヨーコの出会いのシーンに戻り、2人は恋に落ちる。
ここで厄介なのがヨーコが恋をした相手はユウではなく、そのとき罰ゲームでたまたまユウがしていた女装(サソリ)であるということ。
そしてChapter4のタイトルはサソリで、このままクライマックスまで話は進んでいく。
この頃テツのもとにカオリは戻ってきており結婚を考えているが、ヨーコはカオリの連れ子でありユウとヨーコは兄妹となる。
だがヨーコはユウに対して嫌悪感を剥き出しにしておりユウ(=サソリ)は困惑する。
その後一気に事態を進展させたいコイケが学校に転入してきて、自分がサソリと名乗り出たり、ユウの盗撮を皆にバラしたりとどんどんユウの居場所を奪っていく。
ついにはユウの家族にも溶け込み、盗撮の件で家族にもヨーコにも軽蔑されたユウが家を出ていっている間に家族丸ごとゼロ教会へと取り込んでしまう。
その事実を知ったユウはゼロ教会へと近づき、ヨーコを連れ戻す為に単身激しい戦いに身を投じていく...といったのが大まかな内容。
そしてChapter最終章で最高のクライマックスを迎えるといった具合。
ストーリー説明にかなりの行数を割いてしまったが、それだけこの映画には多くの要素が詰まっている。
シネマハスラーで宇多丸師匠がこの映画を"余白のない映画"と言っていたがまさにその通り。
でもストーリーを読んで頂いた方はわかるように決して重々しいって感じじゃないので、かなりサラッと4時間観れてしまうと思う。
ちなみにDVDは上巻・下巻に分かれているが、鑑賞する際は是非上下一気に4時間観てほしい。
きっと観終わる頃には涙していると思います。
最後のChapterはこんなにも切ないことが起こっていいのかってくらい胸が張り裂けそうな切なさに襲われると思います。
西島隆弘、満島ヒカリを始め出ている俳優人も素晴らしいし、ゆらゆら帝国の音楽も最高だね。
随所で見られる肉薄するようなカメラ回しもすごく好きです。
また最後まで勃起がキーになってるところも最高です。
絶対に観て損をする映画じゃないので時間がある方は是非ご覧になってみてください!

2013年6月10日月曜日

監督失格 (2011・日) [7.0/10]

今さら観たっていうのがお恥ずかしい限りですが、監督失格を観た。
監督は数々のドキュメンタリーAV・映画を撮ってきた平野勝之。
ちなみにプロデューサーはカラーの庵野秀明。
エヴァ好きにはお馴染みだが劇中の写真にも何度も登場します。
内容は平野監督と不倫関係にあったAV女優・林由美香、この2人の関係と彼女の死に焦点を当てたドキュメンタリー映画。
序盤から中盤にかけては1997年の撮影された「自転車不倫野宿ツアー 由美香」の撮影風景が中心、しかし物語中頃に由美香の死という衝撃の出来事が起こる。
その後5年間平野はカメラを持つことを辞める。
だが平野はこの由美香の「喪失」と闘い続け、この「監督失格」の完成で一つの区切りを迎える。
実際に観た感想は精神的に相当堪える映画であることは間違いない。
ドキュメンタリー映画であること、全てがリアルであること、そのことが持つ意味は非常に大きい。
由美香の遺体を発見するシーンもたまたま平野の助手がカメラを回しており、実際のその事件現場の様子が克明に収められている。
また平野監督がこれらの撮影材料を自ら編集し一つの映画にしていくというプロセス、その壮絶さは想像に難くない。
最後の「いっちまえ!」と叫びながら夜道を自転車で走行するシーンは目に涙を浮かべずには観られなかった。
賛否両論ある映画だとは思うが、所謂大衆映画・娯楽映画を観るだけでなく、こういった映画に触れるのもよいのではないかと思います。
一人の人間の本当の物語、それは平野監督・林由美香・ママ・カンパニー松尾それぞれにとって、その断片を作品として観るというのは普通の映画を観るのとは違う体験であることは間違いない。