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2013年4月13日土曜日

愛、アムール (2012・墺、仏、独) [8.0/10]

ミヒャエル・ハネケ監督・脚本によるオーストリア、フランス、ドイツ共同制作の作品。
今まで「ファニーゲーム」や「隠された記憶」など人間の負の部分を冷酷な世界観で暴き出し、その世界観故彼の映画はもう二度と観たくないとまで観客に言わせしめてきたハネケが、今作は意外にも夫婦の愛をテーマに扱っている。
この映画は第65回カンヌ国際映画祭でパルムドールを、第85回アカデミー賞で外国語映画賞を獲得するなど各国で高い評価を受けている。
今までの作風とは異なるこの映画を作るきっかけになったのは、自分を育ててくれた90歳を超えた叔母から生きるのが苦しい、こんな惨めな姿を人目に晒したくないので殺して欲しいと言われたことらしい。
ハネケは叔母の遺産相続人だったため社会的な意味でもそれは出来ないと断ったそうだが、病に苦しむ叔母の姿は痛々しく見ていられなかったそう。
この情報はラジオで町山智浩氏の解説を以前に聞いたものなので記憶に誤りがあってもご容赦ください。
内容はパリで暮らすジョルジュとアンヌ、ある日妻が頸動脈の病から手術を受けるが手術は失敗する。
夫は妻の"もう二度と私を病院に戻さないと約束して"との願いを尊重し、自宅で献身的な介護を続けるが日に日に妻の容体は悪化していく...というもの。
冒頭で演奏会に出向くシーンを除いて劇中の120分間自宅のアパート以外のシーンは登場しません。
この映画は丹念もしくは克明という言葉が似合う。
妻の発病から死までそれはまた冷酷なほどリアルに刻々と描いている。
そのためハネケの映画ならではだが最後まで観ていたくない、もう観ていられないと思う人もいるだろう。
確かに鑑賞する際の体力、精神力の消費は普通の映画の比ではない。
しかし愛という観点では最高のラブストーリーだし、今まで二人で歩んできたかくも長い人生の確かさなど光もある。
夫の妻に対する美しすぎる愛は涙を誘う。
この映画を通してハネケが描こうとしていたのは究極の愛、人間誰しも逃れられない死への直面、そしてそのとき愛する人を最後まで愛し抜けるかという問いかけであろう。
とにかく映画自体は素晴らしく、ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ両者の演技は卓越している。
見送る者と見送られる者それぞれの心の内を観る者に語りかける。
またカメラワークや劇中何度も訪れる長い沈黙、室内の美術の素晴らしさ、音響などすべてが合わさって人生讃歌とは決して言えないこの最期の物語の礎を築いている。
劇中本編の進行には関係ない夜中の無人の部屋のカットの連続や絵画のカットの連続が印象的。
でも僕はこの映画を観て暗闇が90、光が10という印象を受けた。
人生に希望や光が存在するとは限らず、絶望の深淵を抉り出す映画を作ることはまた難しい。
人間が必ず最後に向き合う死を夫婦の愛を並存させながら正面から描いた今作は、生きている人皆に一度は観てほしい作品です。

http://www.ai-movie.jp/

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